インター・アクション

 去年の4月から、中学生の教科書が変わり、今年の4月から高校生が変わり、と、教育改革のうねりが襲っています。

そんな中、英語教育が大きく変わりました。


それで、日中、日本語教育に携わってきた私の所にも相談が来たりして、CEFRの話をしたりしています。

ただ、日本語教育の方も大きな変化にさらされていて、むしろ日本語教育の方が後手に回ったりしています。

というのも、日本語教育業界で最も有力な日本語の検定試験『日本語能力試験』が、未だに前時代的な言語知識を問う検定試験で、これでN1(1級のようなもの)に合格したところで、ろくに日本語でコミュニケーションが取れないという、正に昔の(今も?)英語教育のような試験だからです。

それも、いよいよメスが入り、CEFRに合わせた4技能+1へと変化していくことでしょう。


CEFRとは?

詳しくはサイトで探してみて下さい。

分かりやすく言うなら、今まで机の上の勉強だけで合格できた検定試験による言語能力を表すレベルではなく、きちんとした言語運用能力を判定するレベルです。

そう。

つまり、『読む』『聞く』『話す』『書く』の4技能と、それらを使った『やりとり』まで評価するレベルです。

うん。

言語知識だけ持っていても、コミュニケーションが取れなければ意味がない、って、分かりきったことをレベル別に評価する参照枠ですね。


「そんなこと、出来るわけがない!」


なんて言った瞬間、「私は語学教育が出来ない」と言っているのと同義で、今まで、机に向かってノートを取っている学生(生徒)たちに、一方的に知識を話すだけが語学教育だと思い込んできた先生方には無理な話でしょう。

何せ、身につけた言語知識を使えるようにしなければ、CEFRでのレベル判定など出来ないわけですから。



語学教育に『インター・アクション』という言葉があります。

これは、身につけた言語知識を使ってコミュニケーションを行う行為を指します。


通常、語学の教科書等に乗っている会話例は、あくまでも『相手の答えをあらかじめ想定して質問が作られて』います。

「今は何時ですか?」

「今は朝の9時です。」

こんな具合です。

けど、実際のコミュニケーションでは、このような想定された返事が返ってくることは稀です。そのために、インター・アクションが必要となってきます。

もちろん、だからと言って、相手の答えをあらかじめ想定して作られた質問を覚えることが無駄というわけではありません。語学の初歩の段階では、これらの会話例をきちんとマスターすることが必須です。マスターしたうえで、インター・アクションを繰り返すのです。


語学を習いたての頃のコミュニケーションは、それまで覚えた単語や例文、文法事項を必死に思い出して相手とのやりとりを行います。言うなら、まず相手の言葉を自分の理解できる母語(思考言語)に翻訳して、その返事を考え、その返事を覚えた単語や例文に当てはめて相手に伝えるやりとりです。

高速で回転する頭をフルに使って行うコミュニケーションです。

しかし、インター・アクションを繰り返していくうちに、そのような手間をかけず、相手の発した言語をそのまま理解し、そのまま相手の言語で自分の意志を伝えることが出来るようになります。

この訓練(トレーニング)が必要なのです!!


『日本語教師』を英語に訳すと『 teacher (導く人)』じゃないんですね。『 instructor 』なんです。

インストラクターなんていうと、日本ではスポーツ関係の先生を想像しますが、語学教育って訓練させることなんです。

くりかえしインター・アクションを行って、学習者が学習言語でコミュニケーションを取れるようにしてあげるのが語学教育なんです。

言語知識を学んで、机の上で学習する外国語は文学の世界ってもんでしょう。


こういったトレーニングなんてさせたことがない普通の語学教師が、今の教育改革に合わせて『コミュニケーション能力をつけさせろ!』なんて言われたところで何もできない、その経験もないから自信もない、本当、苦労なさっているようです。



『クラッシェンの5つの仮説』だの『第二言語習得理論』だのと小難しい話を引っ張り出さずとも、普通に考えれば分かります。

学習者に会話をさせたければ?

そういう状況を作ればいいんです。

教室じゃできない?

いいえ。それは教員(インストラクター)個人の問題です。


「楽しい!」

そういう状況を作って、自分の気持ちを伝えたくなるような状況を作れば、人間ってのは、必死に覚えた言葉でコミュニケーションを取ろうとするもんなんです。


机で島を作って、どっかから安く買ってきたかき氷器械でも置いておいて、「さぁ、かき氷を作れ!」なんてやれば、多国籍の外国人たちが日本語を使ってコミュニケーションを取り始めるんです。


そんな状況、これまで一方的に知識を話しているだけの授業をしてきた方には無理ですよね?

だから、苦労します。






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